「瑠璃の翼」





小説として書かれているが、実在した野口雄二郎という陸軍軍人の伝記を中心に日本、満州国、ソ連の歴史書として読むこともできる。
というか、むしろ歴史的背景の書き込みが強く、野口雄二郎という人物があまり見えてこない。全編を通してちりちら出現する辻政信の人物像の方が印象的だ。
それは、歴史的背景を書き込めば書き込むほど、雄二郎の私的なエピソードがかすんで、辻政信や三好参謀の動きの方が浮き上がってきてしまう。
ノモンハン事件はソ連崩壊後に新しい認識で見直されているというが、
その文脈でとらえる必要があり、筆者は丁寧に歴史的背景を書き込む必要があったのだと思う。
筆者が真摯な姿勢で取り組んでいることはよく分かる。
しかし、野口雄二郎を中心にした稲妻戦隊の話にもっと絞るべきではなかったろうか。
楽しく読める物語ではなく、何度も読み返さなければならない苦痛があった。

中心的に書かれている飛行機
・九七式戦闘機

登場する飛行機
・九一式戦闘機
・ビーチクラフト水上機
・九五式戦闘機
・イ―15
・イ―16
・モーリス・ファルマン
・アンリ・ファルマン
・ハンス・グラーデ
・カーチス・プッシャー
・モラーヌ・ソルニエ
・フォッカーEⅢ
・フォッカーEⅣ
・スパッド13C1
・サルムソン2A2
・ニューポール81E2
・ソッピースパップ
・九七式重爆撃機
・伊式重爆撃機(フィアットBR20重爆撃機)
・九七式軽爆撃機
・九七式司令部偵察機
・SB爆撃機
・TB爆撃機
・イ―15改良型チャイカ
・フォッカー・スーパー・ユニヴァーサル輸送機
・ボーイングB29
・一式戦闘機「隼」
・四式戦闘機「疾風」
・二式戦闘機「鍾馗」

「瑠璃の翼」
山之口洋
文藝春秋社文庫
2006年12月10日

戦う翼



なんともはやの訳なのです。
この言い回しは、きっと英語でこうなんだろうなと考え、それを自分なりに訳してつじつまがあうみたいなところがありました。

よくあるB17での爆撃行の物語。
副操縦士のボーマンが主人公で、クルーそれぞれの葛藤や人間関係などがよく描かれていて(というか、いると思われ)、楽しめることは楽しめる。
特に、機長のマローが心を壊していく過程が興味深い。

しかし、である。
日本語の文章がなんてこったいなんです。
文章からは、その過程がなかなか伝わってこない。
また、故郷にいるいいなづけのことがちらっと出てくるが、いつのまにか現地での恋人ダフネが登場し、説明はいっさいなし。
どうなっているんだろうと思いつつ、最後まで分からないまま。
そのダフネとのボーマンの関係もよく分からない、原文ではどうなっているんだろうと思ってしまう。

最悪なのは、B17につけられたそれぞれの愛称。
主人公の乗るB17は「いかす娘号」は、まだいいとしても(よくないが)、
その他に出てくるのが「恋人同士号」だとか「社長仲間号」。
「天使の足どり号」「木造りキツツキ号」「ディナより美人号」「消耗品六世号」「でぶっちょマギー号」って、へんな名前のオンパレード。
そのまま、訳せばいいってもんじゃないでしょ。
まだまだある。
「往復切符号」・・・って、こりゃなんじゃい。


ストーリーについて、ひっかかっるものがあったのだけれど、ネットで調べていて分かりました。
1963年にスティーブ・マックイーンとロバート・ワグナーで映画になっていました。
映画の題名が「戦う翼」だ。
そういえば、昔みた記憶があった。
レンタルで借りて来て映画も見てみようっと。


○主人公の乗る機体は
・ボーイングB-17「フライング・フォートレス」

○その他、登場する機体は
・フォッケウルフFw190
・メッサーシュミットMe109
・メッサーシュミットMe110
・ドルニエDo217E
・ハインケルHe113
・P-47サンダーボルト
・スピットファイア-5
・スピットファイア-9
・ボーイングYB-40
・ユンカースJu88
・メッサーシュミットMe210
・ムスタング


「戦う翼」(原題 THE WAR LOVER)
ジョン・ハーシー作
吉良忍訳
昭和63年5月20日発行
朝日ソノラマ文庫