フォッケ=ウルフ迎撃隊





 1944年秋のポーランド、連合軍の爆撃機が連日襲来する中での迎撃戦に挑むドイツ空軍の若者たちの日々。著者は実際にFW190のパイロットだったということで、実際のFW190のデティールや航空団の日常を細かく描いている。ドイツの戦争文学としても「Uボート」に匹敵すると訳者あとがきに書かれていたが、確かに読ませる。そして、重い内容だ。
 皮相的な表現や自省的な表現が全体的なトーンとして強く感じる。この時代の青年の生と死への構えだったのかもしれない。本を読み進めるに従ってこの思いは強くなる。独特な淡々とした記述がおどろおどろした日常をかえって浮かび上がらせる。「焼夷弾二発、炸裂弾、鉄鋼弾各一発、焼けただれた胸郭が二つ、くだけた太腿に割れた頭蓋骨・・・」フォッケウルフに装備する弾帯を装弾している時の表現。
 主人公はまだ学生くささを残した若いパイロットでエースでもなければ、ヒーローでもない。敵機との空戦では弾丸は一発も当たらず、逃げ回る日々。いや、当てないでいることが後に分かる。落ちていく飛行機を見ると敵味方関係なく、パラシュートが開くかどうかを気にかけ、燃えあがるコクピットを見ては焼け焦げる肉のにおいと断末魔の苦しみを想像する。華々しく見える空戦も、コクピットの中ではパイロットが汗と血と尿と糞と吐瀉物にまみれて、わめき泣き叫び声をあげている。墜落したり炎上したりした飛行機の残骸の中を主人公はいつものぞきにいき、パイロットだった人間の肉や骨を見つめる。そしてまた親友とのジャズ演奏や恋人との密会の日常に帰っていく。そんなナイーブな青年が、戦争神経症になるわけでもなく、一日に何度もくり返される出撃の日々を淡々と過ごしていく。
強い無常観を感じさせる。
 ドイツのエースが100機以上、時には300機にものぼることに疑問をもっていたが、謎がとけた。ベテランか新米かで空戦は生死の分かれ目が全く違う。生き延びたものは次の日も生き延びる確立は高い。そして日に何度も出撃がくり返される。死ぬまでくり返される。かくして生き延びたものは撃墜数が伸び、死ぬ確立は下がっていく。新米ですぐに撃ち落とされるか、生き延びてエースになるか。その中間はない。この本の主人公は、敵を落とさず生き延びていこうとする・・・。
 ともかく、えらいたくさんの飛行機の名前が登場する。これくらい細かく技術的な描写や様々飛行機のことを書いてしまうと普通の文学好きには敬遠されるだろうなと危惧してしまう。なかなか読み応えのある本だった。



1 P-51ムスタングA、D「ムスタング」
2 アブロ「マンチェスター」
3 アブロ「ランカスター」
4 アラド96
5 アントノフA-7
6 カーチス「キティホーク」
7 カーチス「トマホーク」
8 コンソリディテッドB-24「リベレイター」
9 シュツルモヴィク(おそらくイリユーシン Il-2)
10 ショート「スターリング」
11 スーパーマリン「スピットファイア」
12 ダグラスDC-3
13 デ・ハビランド「モスキート」
14 ドルニエDo214
15 ドルニエDo217
16 ドルニエDo335
17 ノースアメリカンB-25「ミッチェル」
18 ノースロップP-61「ブラック・ウィドー」
19 ハインケル「プリッツ」
20 ハインケルHe111
21 ハインケルHe116
22 ハインケルHe177
23 ハインケルHe219
24 ハインケルHe51
25 ハインケルHe66
26 ハンドレページ「ハリファックス」
27 ビュッカー131
28 ビュッカー181
29 フィーゼラーFi156「シュトルヒ」
30 フォッケウルフ「ヴァイエ」
31 フォッケウルフ「シュティークリッツ」
32 フォッケウルフFW190-A8、D9
33 フォッケウルフFw200「コンドル」
34 フォッケウルフTa152
35 フォッケウルフTa400
36 ブリストル「ボーファイター」
37 ベルP-39「エアラコブラ」
38 ボーイングB-17A、B、E、F、G
39 ホーカー「タイフーン」
40 ホーカー「テンペスト」
41 マーチンB-130
42 マーチンB-26「マローダー」
43 ミコヤン・グレビッチMiG-3
44 メッサーシュミットMe108「タイフーン」
45 メッサーシュミットMe109
46 メッサーシュミットMe110
47 メッサーシュミットMe210
48 メッサーシュミットMe262
49 メッサーシュミットMe410
50 ヤコブレフYak-7
51 ユンカースJu160
52 ユンカースJu290
53 ユンカースJu390
54 ユンカースJu52
55 ユンカースJu88
56 ユンカースJu88R1「ドーラ5」
57 ユンカースJu90
58 ラボーチキンLaGG-5
59 リパブリックP-47「サンダーボルト」
60 ロッキードP-38「ライトニング」

(ついでにエンジン編)
DB601、DB603、DB605、DB606
BMW801D
Jumo211、Jumo222、004
アルグスAs10C


早川書房
昭和59年初版
ルードルフ・ブラウンブルク
松谷 健二 訳