「迎撃」

作者のエルンスト・トレバーは映画化された「飛べ!、フェニックス」を書いている。別名のアダムスでは、エスピオナージで有名。力量のある作家が、自身が経験したバトル・オブ・ブリテンの飛行基地の日常を書いた作品。
とても良質な読み物だと思う。
丁寧に読みたい本である。
その場に現実にいた経験をもつと思われる作者でなければ気づかないような、現実感のある細やかな描写がいい。
たとえば、待機(スタンバイ)のときの描写。
「ステュークスが、コクピット内にはいると、デイジーは安全ベルトをきちんと装着してやった。
ステュークスは焦燥感にかられはじめた。
ここの座席にすわって、ひたすら待機をつづけるという行動に慣れていないせいだ。
ほんとうは、敏捷にふるまうことが肝要で、ほかの雑念は排除しなければならない。
くわえて、一連の動きにはしずめるようなリズムがある。
安全ベルト、ヘルメット、エンジン始動、地上滑走開始、指揮官機につづけ、離陸・・・といったぐあいにだ。
待機と発進のあいだには時間のずれがある。
これは不愉快だ。愉快だというものはいない。」
ステージの幕が開く前の役者も同じような気持ちを抱くのではないかと読みながら感じた。
緊張感と焦燥感とそのすきまを流れる一瞬の覚めた気持ち、よく分かるなあ。
ちなみにステュークスというのは一応の主人公(複数の登場人物が織りなすドラマ仕立てになっているので)、二日前に着任した新米パイロットで19歳(19歳だよ)。
デイジーはちょっとお姉さんの整備士(女性の整備士というのも当時の英国っぽくていい)で、なにかとこのステュークスが心配でならない感じ。
なんといっても19歳というのが複雑な気持ちにさせられる。
「ブラッカムの爆撃機」でも19歳の少年たちの戦いの物語が書かれていた。
第二次世界大戦、19歳の少年たちが空で戦っていた。
大人でもない子どもでもない複雑な年。
「スカイクロラ」の世界だ。
そうそう、先月81歳で亡くなった親父も、19歳の時、海軍航空隊基地で魚雷整備をしていましたっけ。


1 スピットファイア
2 ドルニエ21中型爆撃機
3 メッサーシュミットBf109戦闘機
4 ホーカー・ハリケーン
5 ハインケル
6 ドルニエ17
7 ユンカースJU88
8 メッサーシュミットBf110
9 サンダーランド


徳間文庫
エルストン トレバー (著), 宇野 輝雄 (翻訳)
1989/12

軍用機開発物語




 副題は、「設計者が語る秘められたプロセス」とある。

 昭和30年代に雑誌「丸」に書かれた開発者の記録6機分に、昭和52年に書かれた「深山・連山」の開発者の記録を加え、中ほどに十二試艦戦の開発プロセスの写真記録でまとめられた、ちょっと変わった体裁の本である。
 取り上げられた開発者は、「飛燕」ー土井武夫、「一式陸上攻撃機」ー本庄季郎、「烈風」ー曽根嘉年、「零観」ー佐野栄太郎、「彩雲」ー内藤子生、「二式大艇」ー足立栄三郎、
「深山・連山」ー碇義朗、各氏である。

 どちらかというと優等生的な印象を与える零戦がひ弱で急降下に制限があり、飛燕は女性的なエレガントなフォルムなのに頑丈で急降下で空中分解を起こしたことがなかったというエピソードがなかなかいい。また、燃えやすいということで「ワンショットライター」とまで言われた一式陸上攻撃機なのに、その木製機が本気で考えられていたというエピソードはあまりに悲しい。


1 私が設計した液冷戦闘機飛燕
1  川崎KDA-Ⅲ
2  川崎九二式戦
3  川崎キ5
4  川崎九五式戦
5  川崎キ28
6  川崎キ10
7  川崎キ60
8  川崎三式戦(飛燕)
9  川崎キ88
10  川崎キ64
11  川崎五式戦(キ100)
12  七試艦上戦闘機(IMF10)
13  中島キ10
14  中島キ27(九七戦)
15  三菱キ33
16  川崎キ61
17  九八式単軽爆
18  キ45
19  キ48
20  メッサーシュミットMe109
21  メッサーシュミットMe110
22  スピットファイア
23  零戦

2 一式陸上攻撃機誕生までの苦闘
1  一式陸上攻撃機
2  九六式陸上攻撃機
3  八試特偵

3 最後の艦戦烈風 設計の秘密
1  十七試艦上戦闘機
2  零戦
3  九六艦戦
4  雷電
5  B29

4 十二試艦戦〔零戦〕試作プロセス

5 名機零観が生まれるまで
1  愛知試作一五式甲型水上機
2  愛知二式複座水上偵察機
3  愛知二式単座水上偵察機
4  愛知試作三座水上偵察機
5  愛知六試小型夜間偵察飛行艇
6  愛知七試水上偵察機
7  愛知八試水上偵察機(双浮舟)
8  愛知八試水上偵察機(単浮舟)
9  愛知試作AM-10幅座水上偵察機
10  川西K-5水上郵便機
11  川西K-7A水上輸送機
12  川西K-8A水上輸送機
13  川西一三式水上練習機
14  川西九〇式二号飛行艇
15  川西九〇式三号水上偵察機
16  川西九四式二号水上偵察機
17  川西九一式水上偵察機
18  川西九三式水上中間練習機
19  川西八試水上偵察機
20  川西九四式水上偵察機
21  ロールバッハR型飛行艇
22  九六艦戦
23  九六式陸上攻撃機
24  九五式水上偵察機

6 艦上偵察機彩雲 開発プロセス
1  彩雲
2  零戦
3  グラマン・ワイルドキャット
4  グラマン・ヘルキャット
5  九七式艦上攻撃機
6  九六式艦上攻撃機
7  九七式艦上偵察機
8  六試艦攻
9  七試艦攻
10  九試単戦
11  九試艦攻
12  クラークGA43旅客機
13  ノースロップ偵察機
14  ダグラスDC3旅客機
15  九七式一号艦上攻撃機
16  九七式二号艦上攻撃機
17  九七式三号艦上攻撃機
18  九七式練習攻撃機
19  天山
20  夜間戦闘機月光
21  四式戦闘機疾風
22  メッサーシュミットMe109
23  十七試陸上攻撃機連山
24  彗星
25  B29

7 傑作機二式大艇 設計の秘密
1  九〇式二号飛行艇
2  十三試大艇
3  九七式大艇
4  コンソリデーテッド飛行艇
5  アンヒビヤン飛行艇
6  B29

8 超重爆深山・連山 技術白書
1 十三試陸上攻撃機
2 ダグラスDC2型
3 ダグラスDC4型
4 ユンカースG38
5 ボーイングB17
6 ボーイングB29
7 川崎キ91
8 キ85
9 九三式重爆撃機
10 富嶽
11 B−36

土井武夫他
光人社NF文庫
2007年9月14日

あっと驚く飛行機の話




 今時、人はあっと驚くのかどうか、マンガ世代はゲッと驚き、アニメ世代はアオスジ頭で驚き、コミック世代は千差万別。私は「タメゴロウ」世代ですが。著者も、編集者につけられたらしい書名にとまどいを覚えたらしいことがあとがきに出てくるが。


 しかし、マニア向けのこのような本がちゃんと上梓されるのだから、マニアにとってはありがたい。飯山幸伸氏の多識には毎度毎度驚かされます。

 ともかく、見出しを一覧。
 第1章 零戦とそっくりな戦闘機
 第2章 爆撃機以外のB-17の仕事
 第3章 米海軍のジェット化直前の騒動
 第4章 日独・斜め銃の秘密
 第5章 本当に役立ったロケットは
 第6章 前時代軍用機が使われる理由
 第7章 航空先進国で活躍した複葉機
 第8章 旅客機の本気の戦い
 第9章 独学だったムスタング生みの親
 第10章 日本航空会の父・フォークト博士の先見性
 第11章 中国空軍の日本本土初空襲と「ふ号兵器」の恐怖

 この見出しをみて、ああ、あのエピソードかと思い浮かぶようであれば、マニアを通り越して、ビョーキです。

第1章 零戦とそっくりな戦闘機
1 零式艦上戦闘機
2 ヴォートV-143
3 十試艦攻
4 九七式戦闘機
5 キ-43隼
6 八試特偵
7 九試中攻
8 九六陸攻
9 F4Uコルセア
10 ノースロップ3A
11 XFT-1
12 P-26
13 セヴァスキーP-35
14 カーチスP-36
15 96艦戦
16 グロスターF-5/34
17 グロスター・ゲームコック
18 グロスター・グラディエーター
19 ミーティア
20 ハリケーン
21 スピットファイア
22 SAAB17
23 SAAB18
24 SAAB21
25 SAAB19
26 FFVS・J22
27 ヴォート・ビンディーケーター
28 ブラックバーン・スキュア
29 ノースアメリカンP-51
30 メッサーシュミットBf109
31 グラマンF4U
32 烈風
33 リパブリックP-47
34 グラマンF6F
35 シーモスキート
36 グラマンF8F
37 グラマンF7F

 第2章 爆撃機以外のB-17の仕事
1 ボーイングB-17
2 ボーイング307
3 コンソリデーテッドB-24
4 ボーイングF-9
5 コンソリデーテッドF-7
6 YB-40
7 XB-41
8 ボーイングPBBシーレンジャー
9 ボーイングB-29
10 PB4Y-1
11 BQ-7
12 BQ-8
13 C-109
14 C-87
15 PB4Y-2
16 PB-1W
17 グラマンTBM-3W
18 PB-1G

 第3章 米海軍のジェット化直前の騒動
1 マクダネルFD-1ファントム
2 ライアンFR-1ファイアボール
3 カーチスXF15C
4 ノースアメリカンFJ-1サヴェイジ
5 デ・ハビランドD.H.100シーヴァンパイアF.Mk.20
6 ウエストランド・ワイバーンS.Mk.4
7 スーパーマリン・アタッカーFB.Mk.2
8 ホーカー・シーホークFGA.Mk.6

 第4章 日独・斜め銃の秘密
1 中島夜間戦闘機月光11型
2 フォッケウルフFw190F-8

 第5章 本当に役立ったロケットは
1 オペル・ザンダーRak-1
2 リピッシュ・エンテ・ロケット・グライダー
3 ヘンシェルHs293A
4 メッサーシュミットMe163B-1コメート
5 バッヘムBa349Aナッター
6 ドイツ陸軍兵器局A4(V2)

 第6章 前時代軍用機が使われる理由
1 アヴェロ504N
2 フェアリーⅢF
3 グロスター・ゴーントレットMk.2
4 フィアットCR32
5 グロスター・グラディエーターMk.2
6 フィアットCR42

 第7章 航空先進国で活躍した複葉機
1 川崎九五式戦闘機2型(キ-10Ⅱ)
2 アラドAr68E
3 グラマンFF-1
4 カーチスSBC-4ヘルダイヴァー
5 カーチスSOC-1シーガル
6 スーパーマリン・シーオッターMk.1

 第8章 旅客機の本気の戦い
1 デ・ハビランドD.H.89ドミニ
2 ダグラスDC-2
3 ファルマンNC223・3
4 中島フォッカー・スーパー・ユニヴァーサル

 第9章 独学だったムスタング生みの親
1 フォッカーFⅦB/3m
2 ノースアメリカンP-51ムスタング
3 ノースロップF-5Aフリーダムファイター

 第10章 日本航空会の父・フォークト博士の先見性
1 川崎・ドルニエ八七式中爆撃機
2 川崎八八式偵察機1型
3 川崎九二式戦闘機
4 ブローム&フォスBv-P202
5 エイムス・インダストリーAD-1オブリーク翼機

 第11章 中国空軍の日本本土初空襲と「ふ号兵器」の恐怖
1 ツポレフSB-2m
2 マーチン139W
3 風船爆弾


飯山幸伸
2008年5月12日発行
光人社NF文庫

二式大艇空戦記


 著者は九七式大艇から二式大艇のパイロットとして第二次大戦を過ごし、最後は神風特別攻撃隊梓隊としてウルシー攻撃に参戦した経験をもつ。

 日本ではめずらしい4発機である二式大艇の当時の様子がよく分かって興味深い。海上長距離をレーダーなしで飛ぶことがいか難しいことであるか。台風下の悪天候を飛行しているときの描写で、搭乗員がみな目を回し嘔吐まみれで伸びている場面があるが、ランカスターやB17の爆撃行でも嘔吐する話が出てきたのを思い出した。

 後半は、神風特別攻撃隊としてウルシー攻撃に参加する様子が克明に記録されている。決して、美談では済まされない、当事者として味わった苦悩やせつなさがよく伝わってくる。




1 二式飛行艇
2 銀河
3 グラマンF6F
4 ロッキードP38
5 ボーイングB29
6 九七式飛行艇
7 彩雲
8 極光
9 PB4Y2

長峯五郎
光人社文庫
2007年1月

新司偵−キ46技術開発と戦歴−



 碇さんは、自身が陸軍航空技術研究所に勤めていた経験のあるテクニカル・ライターで、メカニカルなドキュメントだけでなく、そこに関わった人間をも深く描いた作品が多い。この「新司偵」も、キ46という優れた飛行機の開発のドキュメンタリーと開発に関わった人たちや新司偵で戦った人たちの人間ドラマを同時に描いている。しかも、ご自分がその場にいたというのも、すごいこと。ご自身の目で見たり感じたりしたことを、おりおりにさりげなく語られている。

 新司偵、正式には100式司令部偵察機は「新しい」司令部偵察機という意味。ということは旧司偵もあるわけで、それが97式司令部偵察機。この本では、キ15から神風号、97式司令部偵察機、そして100式司令部偵察機の系譜を軸として物語が語られる。

 それまで世界になかった戦略偵察という新しいコンセプトで開発されたキ15という飛行機は、その新しさ故に軍に認められず、干されていた。戦闘機よりも速く、そして遠くまで飛べたにもかかわらず。それが、朝日新聞社の神風号として日本ロンドン間飛行の記録を作り、日本どころか世界中から注目されてしまう。折しも、日本と中国の戦争が悪化。そこで、97式司令部偵察機として大活躍する。そのコンセプトがようやく認められたのだ。

 そして、そのコンセプトを引き継いで生まれたのが100式司令部偵察機。単発だったのが双発になり、より洗練されて、当時の世界標準を軽く突破。早く、高く、遠くまで飛べるスーパー飛行機になった。美しい飛行機は優れた飛行機というレジェンドがここでも確認できる。

 最終的には、武器をつけて戦闘機に変身。何しろB29の飛行高度1万メートルまで登れる飛行機は新司偵しかなかったのだ。戦闘機と偵察機ではその頑丈さが違うので、通常ではそのようなことは無理なのだ。言ってみれば偵察機は陸上のアスリートみたいなもの、アスリートが背中に重機関銃を背負って走る姿を想像してみればいい。しかし、新司偵は構造がよかったのでそのような使用にも十分に耐えたという。

 モスキートやP-38のように、始めから戦闘機として開発され、その優秀さから偵察機に転用した例はあるけれど、その逆は新司偵だけだったと碇さんはこの本の中で述べている。新司偵のスタイルはのびやかですなおで無理がない。本当に美しくエレガントなスタイルだ。ただ、残念なのはやはりエンジンまわりはオイルで汚れてしまっていたという日本の当時の工作技術の弱さである。敗戦後、日本に進駐してきたアメリカのアヴェンジャーのエンジン・ナセルの後部をあけるとほこりがうっすらたまっていたことに感心するエピソードが出てくる。
 
 このような基礎的なパッキングの技術の差は、実は致命的な差につながっていた。1000機以上作られたのは特筆すべきである。

 ところで、三船敏郎って航空写真を扱う司偵の偵察員だったのだ。軍隊では喧嘩ばかりしていて上等兵どまり。戦後にカメラマンとして採用してもらうため東宝に履歴書を提出し、まちがって俳優に採用されてしまったのだそうだ。(この本には載っていないエピソードでした)


1 百式司令部偵察機
2 「スピットファイア」
3 「鐘馗」
4 「吞龍」
5 サルムソン2A2(乙式一型)
6 三菱「鳶」
7 石川島T2
8 川崎KDA2(八八式偵察機)
9 八八式軽爆撃機
10 九七式司令部偵察機(神風号)
11 「屠龍」
12 「飛燕」
13 「キ102」
14 海軍七試艦上戦闘機
15 九六式艦上戦闘機
16 零式艦上戦闘機
17 九四式偵察機
18 九二式偵察機
19 九一式戦闘機
20 キ10(九五式戦闘機)
21 キ11
22 ドヴァーチンD510
23 ユンカースJu160
24 エアスピード・エンボイ
25 キ15
26 キ27(九七式戦闘機)
27 サルムソン(乙式一型)
28 メッサーシュミットBf109
29 ホーカー・ハリケーン
30 セヴァスキーP35
31 カーチスP36
32 ヘンシェル126A1
33 スーパーマリン・スピットファイア
34 I16
35 アンリオ220
36 ロアール・ニュポール20
37 ロマノ110
38 ブレゲー690
39 ポテ630
40 ノースロップA17
41 デ・ハビランド・コメット
42 九六式陸上攻撃機
43 ニッポン号
44 中島AT2型
45 フィアットBR20爆撃機
46 九七式重爆撃機
47 I15
48 ウエストランド・ライサンダー
49 九九式高等練習機
50 九七式軽爆撃機
51 キ51
52 九九式襲撃機
53 九九式軍偵察機
54 キ83
55 モラン・ソルニエ
56 ノースアメリカンB25
57 P40
58 キ60
59 キ70
60 ロッキードP38
61 B17
62 B24
63 グラマンF6Fヘルキャット
64 リパブリックP47サンダーボルト
65 ノースアメリカンP51ムスタング
66 ロッキードF4
67 キ83
68 キ95
69 B29
70 中島J1N1(月光)
71 九八式陸上偵察機
72 「彗星」
73 中島J1N1-C(二式陸上偵察機)
74 「彩雲」
75 「桜花」
76 「疾風」
77 一式双発高等練習機
78 A26「航研機」
79 キ77
80 グラマンTBFアヴェンジャー


1991年11月
碇義朗
光人社NF文庫