嵐の生涯



ハインケルの自伝である。

フジ出版の初版本を手に入れたので、ここ1月ほどベッドサイドにおいておき、今朝読み終えた。
おもしろかった。


ハインケルは、実にユニークだ。
せかせかしたせっかちな性格で、発想が豊かなためにあれやこれやといろいろなものに手を出し、天性のカンで方向を見失わない。
いわゆる長島さんタイプだ。
時代を先走りすぎて、まわりがついて来れない。

その根底にあるエンジニア魂を生かすにはナチスドイツの時代はあまりにギャップがありすぎた。
彼は、平和の時代に生きてこそ、その能力を生かしきれたと思う。
飛行機の草創期からスポーツ機や旅客機をつくっていた時代が一番幸せだったに違いない。
ハインケルは政治を嫌いながらもその中に翻弄されていく。
ヒトラーをとりまく官僚が政治闘争にあけくれ戦略を見誤っていく件は、これまでの狂気のヒトラー像とは違っておもしろかった。
ハインケルは確実に時代の進む道が方向違いしていることを悟っていた。

爆撃機、戦闘機、ジェット機、ロケット機とどれも先鞭をつけていながら、後発のメーカーにいつも制式機を奪われてしまう。
これらの飛行機が制式化されないのは、政治の駆け引きでしかない。
戦争当初から末までそれが繰り返される。
ようやく日の目を見るのが、He219であり、He162である。

双発戦闘機としておそらく世界最強のHe219であるが、それだって本格生産が始まるまでごたごたに巻き込まれている。

He162は、計画から最短で生産されたジェット機であるが、ナチスドイツ終焉が間近にせまってようやくハインケルにお鉢がまわってきた制式機であった。
というか、短期間で生産できる機体についての発想力はハインケルしかいなかった。

ハインケルは自身の性格からか、スピードを第一とした。
アイデアから実際の制作まで短期間で行ってしまう。
自動車も猛スピードで走らせ、スピード狂を自認する。
常にアイデアに満ち、人生も車も直感のままに突っ走る。
巻頭に写真が数ページあるが、ひとなつっこい丸顔に大きな鼻の写真がなかなかいい。
そして、工場視察に政治家や軍人がきたときの写真が実にいい。
ハインケルはポケットに手をいれ、すねたような感じで一群とはなれて写っている。
おそらくこのスタンスが彼の人生をそのまま表しているようだ。



日本人が好きで、すき焼きを好み、自分でもつくっていたというエピソードもある。